イライラの裏側にあるもの

考えていること

 

購読している新聞の人生相談コーナー、著名な方が投稿者の悩みに回答しているのですが、その回答が予想の斜め上をいく感じが痛快で面白く、気に入ってよく読んでいます。

今日読んだ内容で、自分も少し思うところがあったので書いてみたいと思います。

 

態度の悪い部下にイライラ

態度悪い部下にイライラする、という40代女性の方からの悩み相談でした。内容は、自分が指導係として仕事を教えている10歳年下の女性部下に対してのこと。その女性部下は感情の起伏が激しく、忙しくなると会話中に目を合わさなかったり、返事をしなくなるなど態度に問題があるようです。相談者はそんな部下の態度に理解ができず、自分もイライラとしてしまう。どうすれば心おだやかに過ごせますか、というような内容の相談でした。

 

「それ、わかる!」という方も多数いらっしゃるような悩みだなと思いました。今回の相談の回答者は漫画家/エッセイストのヤマザキマリさんで、次のような回答をされていました。

世代による社会での振る舞いの違いということについて触れた上で、「他者はとにかく自分の思い通りにならない。異星人が部下になってしまったと諦めて、効果は期待せずに言いたいことは告げつつ、あなたのやるべき仕事を淡々とこなしましょう」と締めくくられていました。

異星人が部下につくという発想も面白いなあと思いつつ、「もし自分が相談を受けた側だったらどう答えるのだろうか」と考えてみました。

 

イライラの奥に潜む気持ち

イライラしたときに、「自分は一体、何に対してイライラしているのだろうか」と考えてみることは、イライラを解消するヒントを見つけることにつながると私は思っています。

イライラしている瞬間は頭に血が上っているので冷静に考えることが難しいものですが、少し間を置いて冷静に考えれる段階になったら、一歩引いて思考のベクトルを自分自身に向けてみると自分自身が気づいていなかった気持ちに気がつくことがあります。

そんなことを、私はベトナムのローカル居酒屋さんで経験することがありましたので、少し紹介します。

その日、私は当時一緒にベトナム駐在していた上司とローカル居酒屋さんで食事をしていました。オーダーをするときに片言のベトナム語を話す私が可笑しかったのか、一人の居酒屋店員さんが料理や飲み物をテーブルに持ってくる度にちょっかいをかけてくるようになりました。

「料理、美味しい?」と質問してくるので、「美味しいですよ」と返すと、わざと聞き取れないふりをして「うーん?君のベトナム語、よく聞き取れないなぁ。美味しい〜?」と薄笑いを浮かべながら聞き直してきたり、私が馬鹿らしくなって何も言わないでいると、「うん?どうしたの?美味しいって言わないの〜?」とヘラヘラ笑いながら顔を近づけてくるので、私も頭に血が上ってしまいました。

私の我慢リミッターが外れる前に、お店が少し混雑してきてその店員さんが他のところに行ったことでその場は収まったのですが、私の気持ちはおさまらずひとしきり上司に悪態をつきました。私が話すのを黙って聞いていた上司が、ポツリとこんなことを言いました。

「Kiriは、あの店員さんに期待していたんですね。」

一瞬、どういうことか分からなかったので聞いてみると、こういうことでした。

私は、自覚の有無はさておき、先ほどの店員さんと友好的なコミュニケーションが取れる(あるいは、取りたい)と思っていた。けれど、店員さんの反応は、私の望むものとは大きく隔たりがあった。そのギャップを感じ、そこにストレスを感じた。つまり、私は相手が自分の期待するリアクションを取れる(取ってくれるはず)と期待していた。けれども、結果的に相手は自分の期待にあう形でのコミュニケーションを取ろうとはしなかったことで、私は自分の期待が外れてしまい、期待通りの動きをしない相手に対して苛立ちを感じた。

上司は、続けてこう言います。

「私は、あの店員の態度を見てすぐに、こいつはダメだと心の中で見限ったので、あの店員に対して何も期待することがなかった。だから、あの態度を見ても何も感じなかった。Kiriは、あの店員に期待して、信じたい気持ちがあったから、腹が立ったのでしょうね。あんなやつを信じようとするなんて、やっぱりKiriは性善説の人ですね〜(笑)。」

なるほどなぁと、思いました。自覚はなかったけれど、そう言われて初めて、私はあの態度の悪い店員に「本当はちゃんとした接客態度が取れるはずだ」と信じ、期待していたんだなと気がつきました。

改めて考えてみれば、期待していない相手にはこちらも腹が立つこともありません。私が自宅で飼っているハムスターに掛け算の九九を教えて一向に覚えようとしなかったとしても、「なぜ覚えられないんだ!」と私が腹を立てることなどあるはずもないのです。だって、「ハムスターは99を理解することはできない」とわかりきっているのですから。

そう思うと、「あんな店員に、期待したいと思った自分が愚かだった」とバカバカしく思えて来て、それまで苛立っていた気持ちがスーッと引いていきました。

ちなみに上司の「性善説の人ですね(笑)」のくだりは、私と上司の間でのやりとりに置ける十八番のようなもので、上司曰く私は「人間が好き」なんだとか。

 

それでも信じるならば最後まで

冒頭の相談者の回答に戻って考えてみます。相談者は、10歳年下の部下に対して「自分の感情だけ優先させるのではなく、周囲の人と円滑なコミュニケーションが取れる」と信じ、期待していることが伺えます。

30歳を過ぎた社会人ですから、それを期待するのは当然といえば当然ですが、客観的事実は「それができない部下なんだ」ということ。「そんな低次元なことは教えられなくてもできて当たり前」「そんなことまで自分が教える必要はない」と考えるのは、主観です。

ほとんどの人間は主観で生きています。それが、人間という生き物の動物らしさでもあるし、主観がなければ共感や感動などはひどく薄らいでしまい、味気ない人生になってしまいかねません。

だから、主観的にみて「あぁ、自分はこの部下に期待しているんだなぁ。それが未だにできてない姿に、自分は苛立ちを感じているんだな」と感じるのは、それでいいと思います。自分の自然な姿ですから。

ただ、仕事として考えるとき、主観だけで物事を見ていると判断の方向性を誤りやすい。相談者は指導係としてその部下を指導することが仕事になっていますから、できない部下に対して怒って匙を投げてしまうのは、客観的な見方をすると指導係としての仕事を放棄してしまっているとも言えてしまうわけです。

今回の相談者の場合、この部下の態度に対してどこまでの指導を行ったのか説明からはわかりませんでしたが、社会人として最低限のマナーを部下に指導することも指導係としての職務であるとするならば、ここで一つ判断をしなければならないでしょう。それは「この部下は、期待するレベルまで上がってこれる素養を持っているのかどうか」という視点での判断です。

現時点の部下の能力を客観的に分析し、現時点までのプロセスとしてどのような教育をその部下に行ったか。その結果、何ができるようになって、何がまだできないのか。まずは上司とその状況をシェアして、「この部下の能力のどの部分をどのレベルまで引き上げる必要があるのか」をはっきりさせる方がいいと思います。場合によっては、部下にはその素養がないと判断して、その部下でも対応できるような別な仕事を割り当てることになる可能性もあるでしょう。

ヤマザキマリさんのいう「あなたのやるべき仕事を淡々とこなしましょう」は、そういうことだと思います。

では、部下を宇宙人と思うかどうか。

ここは、ある程度相談者の主観を出してもいいのではないでしょうか。イライラするのは相手に期待しているからです。指導係が指導の対象となる人を信じたり、期待できなくなってしまったら、もうそこにあるのは単なる事務処理です。そんな指導係、嫌ですよね。

主観と客観を意識して自分が何にイライラしているのかを冷静に分析すれば、少し慣れと訓練が必要ですが、多少は自分の感情をコントロールすることができるようになります。

「あ、今自分は腹がたっているな」とはっきり自覚した上で、それはそれで脇に置いておいて(後で上司に愚痴るのもいいでしょう)、部下に対しては「あなたは、こういう振る舞いが職場で求められていますよ、そして私はあなたはそれが十分できる能力があると思っています。今はできないみたいですが、あなたを信じています。しっかりできるようになってもらいたいので、目に余る場合は厳しく指導しますから、覚悟してね!」といえば、単純に「なんであなたは出来ないんですか!」と感情的に言う場合と比べて、相手の受け止め方もまた違うものになるはずです。

「こうなってもらった方が、部下にとってもプラスに作用する」と自信を持って言えることであれば、しっかり部下に向き合って、言うべきことをはっきりと言う。信じたいと思える部下なら、最後まで信じて向き合うのがいいでしょう。信じられない、期待できないと思うならば、それを上司に説明した上で、指導方針を見直すのも一つです。

上司もまともに話を聞いてくれず放任主義、部下も相変わらず好き放題わがまま放題、そんな状況となって初めて、自分の精神衛生状態を健全に保つために「そうか、相手は宇宙人だったのか」と思えばいいのかなと。

思い通りに進まずイライラした時は、まずは自分のイライラの裏側に何があるのかを分析してみてはどうでしょう。「えー、私はそんなことを思っていたのか〜」と意外な自分の気持ちに気がついて、面白い発見があるかも知れません。

 

以上です。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。

 

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