部下との信頼関係を築くために管理者が考えておくこと

考えていること

 

「部下には、どのように接したら良いのだろうか」

 

先日に参加した社外でのオンラインミーティングで、他の参加者からこのようなコメントがありました。

 

そのときはすぐに反応ができなかったのですが、何か私からお伝えできることがあるかもしれない、ミーティングが終わった後もそんな気持ちが自分の中で渦巻いていました。

 

私自身、ベトナムという環境ではありますが、100名規模の部下を持って7年間工場管理を行ってきました。

その中で感じたこと、実際にやってうまくいったこと、失敗したこともあります。

その内容を私なりに要約して伝えることができれば、これから部下を持つ方にとって、何かの役に立てるのではないか。

 

そんな気持ちから、今回の記事を作成しました。

 

冒頭の問いかけ「部下とどのように接すれば良いか」は、言葉を変えると「部下とどのように信頼関係を作るか」ということだといえます。

 

以下は、私が7年以上管理職としての仕事をする中で実際に経験したことから得た内容です。

もし冒頭のことについて悩まれている方にとって、少しでも役立つ内容があれば嬉しく思います。

 

概要

本記事では、次のようなことを書いています。

 

・部下とどのように信頼関係を作るのか

・管理者の3つの心構え

・まとめ

・おまけ(おすすめ書籍紹介)

 

部下とどのように信頼関係を作るのか

 

私はかつて、部下との人間関係構築に思いきり失敗しています。

どのように失敗したのか?それは、端的に言うと「部下の行動を管理しようとした」ためでした。

 

行動を管理しようとすると失敗する

初めて役職に就いた時、私に3名の部下が出来ました。最初に私がやったことは、毎週の日程表を週初めてに作成するように指示をして、週末にその結果をチェックする、ということでした。

一見、「それの何がダメなの」と思われるかもしれませんが、私のやり方ではそれは大失敗しました。部下に「自分の行動を逐一監視されている」というような心境にさせてしまっており、私に対して信頼感どころか不満感を持っていました。

当然そんな環境でモチベーションなど上がるはずもなく、目標に掲げていたことを何も達成できないまま期末を迎えることになりました。

 

誰しも、自分の行動を逐一監視されるのは気持ちの良いものではないですよね。

その頃の私はそれにさえ気がつくことが出来ていませんでした。

行動を逐一チェックするようなやり方では、信頼関係を築くことはできないと分かった出来事でした。

 

上司として何をすべきだったか

次は、うまくいった時のことを考えてみます。

 

組織内で、社内教育のしくみを作り直そう、というテーマで取り組んだときのことです。

 

それまでは、社内教育と言いながらも、実際にはOJTという都合の良い言葉でお茶を濁し、先生役を先輩社員に押し付けるという状況でした。

先輩社員は自分の担当する仕事は一定の経験があるので上手にこなしますが、自分が上手くできることと人に教えて同じことをできるようにするのは全く別物です。

先輩社員の「教える」スキルは管理されていませんので、教え方や教える内容には相当なバラつきがでます。そして、どの先輩から教わるかよって、教わった人のスキルにもばらつきが生じます。その結果、組織全体の仕事の品質に大きく影響が出ていました。

これを改善するための取り組みとして、社内の教育制度を作り直すことにしました。

 

今までの社内教育のやり方を抜本的に見直して、誰が先生役になったとしても必要な内容を正しく伝えることができる、また、教わった側に確かに必要な内容が身についたかどうかを客観的にチェックできる仕組みを作る。それが目指す地点でした。

 

一人の社員に、その推進の役割を担ってもらいました。その社員は社内では一番社歴が長いメンバーの一人で、これまで多様な仕事に関わる中で、幅広い業務の枠で一通りの仕事の流れを把握できていました。仕事に対しての意欲もしっかり持っている人であることを知っていたので、テーマの内容を伝えた上で細かいやり方は指示せずに任せてみました。

 

どのように進んでいるかは把握していく必要があるので、流れができるまでのはじめの期間は週に1回のペースで進捗確認のミーティングを行いながら進めました。

アウトプットの方向性が定まるまでの間は、その社員もどのように進めていくべきか試行錯誤を続けましたが、私も一緒に考える中で具体的な進め方が定まり、あとは実行あるのみというところでミーティングの間隔は少しあけるように切り替えました。

 

そこからは具体的なことは私からは何も指示しませんでしたが、その社員は自分でやってみようと思うことをどんどん自分から進めてくれて、定例の進捗確認ミーティングでは「そんなことまでやってくれているのか」と驚かされるほどに社員の独自アイデアをふんだんに盛り込んで内容を充実させてくれました。

結果、社内の教育制度は非常に良いものになり、教育カリキュラムもしっかりしたものができて、誰が先生役になっても必要な事項を正しく教えることのできる体制が整いました。この取り組みは本社からも評価され、「こちらでも同じことができるように、資料を分けて欲しい」とまで言ってもらえて、私もその社員も大変喜びました。

 

ここでは、私はその社員の日常行動は監視せず、方向性を定めるところまでは一緒にどっぷりと入り込み、方向性が定まったあとの細かいやり方は担当の社員に任せました。

そのあとは定期的にミーティングをしながら、進んでいる状況や方向がずれていないかどうかの確認と、担当者だけで解決できない課題の解決フォローだけやっていた感じです。

 

この経験から、次のことがわかりました。

 

上司の立場としてやるべきことは、行動を監視することではなくて、部下の役割と、出して欲しい成果が何かをはっきりさせ、それが相手に伝わっているかどうかをこまめに確認しながら伴走することだと言えます。

 

相手に正しく伝わっているかどうかを確認するのに、部下と一緒にこまめに進捗を確認します。

そうすることで、相手の理解度や進め方を読み取ることができるし、部下も自分のやっていることが間違っていないと確信しながら進めることができるので、安心して動くことができます。

確認のミーティングはこまめにやるので、長々とやったりせず、前回のミーティングから今回までに行った内容を聞くだけなので、30分もかけません。あっさりとしたものです。

 

1つ注意点として、部下と伴走する際にどのように声かけや行き先誘導をするかは、相手のタイプや力量によって使い分ける必要がある、ということです。

これについては、後で詳しく書くことにします。

 

部下は困っているのか?困っていないのか?

もう1つ分かった重要なこととして、相手が困っているのか、困っていないのかを注意深く見る、ということがあります。

 

多くの人にとって、特に困ってもないのに上司に必要以上にまとわりつかれるのは、あまり気持ちの良いものではありません。でも、仕事で困っている時に上司が全く関心を持ってくれず、問題を解決する手助けもしてくれなかったら、とても不安になります。

そのため、部下が困っているのかそうでないかを気にして自分と相手の距離を微調整することは重要なことだと言えます。

しかし、部下によっては「困っている」と口では言ってくれないケースも多くあるというのが難しいところです。なので、部下の様子を見ながら「困った」フラグが立っているのかどうかを、上司自身で見定める必要があります。

 

困っていない場合

もし部下が困っている様子がなく、進んでいる方向や出ている成果のペースに特に問題がなければ、かなり多くの部分で部下の好きなようにさせてあげるので良いというのが私の考えです。むしろ、困っておらず成果も順調な時にアレコレと余計な口出しをしてしまうと、部下から煙たがられる可能性が高まります。

 

困っている場合

反対に、困っているというフラグが立った時には、素早い対応が求められます。

その時のパターンは、大きく次の2つに分けれます。

 

部下が何に困っているのか部下本人が分かっているとき

問題の内容を部下から説明してもらい、その上で解決の道を示して先に進めるようにします。

そうすると、部下は「自分の話を聞いてもらえた」という安心感と、道を示されたことで前に進むことができる安心感、2つの安心感で持って、また進んでいくことができます。

 

部下が何に困っているのか部下本人も分かっていないとき

何が問題なのか、どう解決するのが最善かを一緒に考えてあげる、というアクションが求められます。状況を整理し、問題点を抽出し、その問題点に対してどういう対策が有効か一緒に考え、対処の仕方を決める、ということをやります。

このとき、一連のプロセスを部下と一緒にやるというのがポイントです。自分の中で最初から答えが見えていても、いきなり回答は出さず、回答に至るまでの思考の道筋を一緒にたどるようにします。

そうすることで、部下は「そうか、そう考えればよかったのか」という気持ちになり、部下にとって気付きや学びのチャンスとなります。これは、次は自分で出来るようになろう、という成長のサポートにもなります。

また、場合によっては「上司はやっぱりすごいな」と思ってもらえるかもしれません。

 

ちなみに、部下から「上司はすごいな」と思ってもらうことは、とても大切なことだと私は思っています。これは先輩風を吹かせたり、威張ったりすることとは全く次元の違うものです。

また、自分より部下の方が専門性が高い分野においては、上司だからと変に気取ったりせずに「わからないので教えて欲しい」と聞ける謙虚さも求められると思います。経験上、わからないことを「わからないから教えてもらいたい」と部下に言うことそのもので信頼を失うことはありません。

反対に、よく知らない、わかっていないのに知っているふりをしたりして取り繕うと、大抵バレます。部下は上司が思っている以上に上司のことを見ています。そしてそれがバレた時、信頼を失うのだと思います。

 

 

相手を知ること、自分を知ること

 

続いて気にしておきたい大切なことは、「相手を知ること」と「自分を知ること」の2つです。兵法で有名な孫子も「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」と言っていますね。

ただし部下は敵ではありませんので、ここは「敵」を「部下」と読み替えましょう。

 

では部下を知るとはどういうことか。自分を知るとはどういうことか。これについて考えたいと思います。

 

部下を知ること

これは、部下のタイプと力量を知る、という様に考えます。

部下のタイプを考える時は、次のような分類で考えてみます。

 

自燃性:自分から燃えることができる

可燃性:火をつけると燃える

不燃性:火をつけても燃えない

 

順番にみてみましょう。

 

自燃性タイプ

読んで字のごとく、自分で燃えることができるタイプの人。この人は、あれこれ指示をしなくても自分で動くことができるので、上司としては大変心強く、ありがたい存在です。方向性さえ間違わなければ、どんどん自分で燃えて進んでもらえるので、上司としてはその人が仕事をしやすくなるように仕事の環境を整えてあげればOKです。

ただ、このタイプの人は少数派です。組織全体のうち上位2割と言われたりしますが、実際にはもっともっと少ない印象です。

 

可燃性タイプ

自分から燃えて進むほどではないけれど、キッカケがあれば燃えることができる人です。組織を構成するメンバーの多く(6割と表現されることも多いです)は、このタイプの人で構成されていると考えておきましょう。

では燃えるキッカケは誰が作るのか?もちろん、上司です。

組織を引っ張るリーダーがその組織内で誰よりも燃えていないといけないのは、当然です。

組織で何かを成そうと思った時、この可燃性タイプの人をどれだけ燃やすことができるかで大きく結果が変わると感じています。野球やサッカーで名監督と言われる人は、この「可燃性タイプ」の選手に火をつけるスキルが異常に高いのだと私は考えています。

不燃性タイプ

キッカケを与え続けても、なかなか燃えてくれない人。残念ながら組織には一定の比率でこのような方もいるのが現実です。

先ほどは野球やサッカーの例えを出しましたが、野球やサッカーでは監督が戦力外通知を出してメンバーを入れ替えることも可能ですが、組織で働く私たちはメンバーを自分の意志で簡単に変えることは出来ませんので、ここに一つのむずかしさがあると思います。

相手の性格などをみた上で適任の仕事を割り振ることができればラッキーですが、そうでない場合は、この不燃性タイプの人の行動が、可燃性タイプの人の行動に悪影響を及ぼしていないかどうかを気にしておくことが重要です。

組織にはほぼ必ずと言って良いぐらい不燃性タイプの人がいますが、全体の中で少数派であるというのもまた事実で、可燃性タイプへの影響が出ていなければ組織の成果に対しては重大な影響を及ぼすことはありませんので、必要以上に気にしなくても大丈夫です。

 

ちなみに、私はこの不燃性タイプの人をどれだけ包容できるかどうかが上司としての器の大きさだと思っているところがあります。

不燃性タイプを組織から徹底排除しようとする、いわゆるエリート主義の考え方もありますが、私はエリート主義というのはどこかで頭打ちになる要素をはらんでいて、成功させることは容易ではないと考えています。

そして組織を長く続けていく上では、こういう不燃性タイプの荒れ馬をどれだけうまく乗りこなせるかが上司としての重要なスキルだと思うのです。

これを「清濁併せ呑む」という言葉で表現されることが多いですが、大きな成果を出している人は、こういう「ちょっと手に負えないタイプ」のチームメンバーとも上手に信頼関係を作り、そんなメンバーにもしっかりと役割を果たしてもらえるだけの魅力をそなえているものです。願わくば、自分自身もそのような存在になりたいと思うのは、厚かましいでしょうか。

 

 

力量を知る

 

続いて、部下の力量を把握することについて考えます。

ここで大切なことは、タスク管理を自分でできるのか、できないのか、ということです。マルチタスクをこなせるのか、こなせないのか、と言い換えることもできます。

なぜかというと、この能力如何によって、上司である自分から部下にどのような指示の出し方をするかが大きく変わってくるためです。

 

力量を把握する1つの目安として、部下が自分自身で「目標とする地点から逆算して物事を考えているかどうか」、すこし硬い言い方をすれば、細かいタスク割りとマイルストン管理を自分でできるのかどうかを見定めることです。

 

部下が自分でタスク管理をできている場合

このスキルを持っている部下は自分で道を作れるので、上司としては、部下からの成果が目標とするところに近ずいているかどうか、方向性が間違ってないかを確認するだけで基本OKです。

これは、上述の自燃性タイプの人に多い傾向です。そのため、タスク割りやマイルストン管理が出来る人はどちらかと言えば少数派と思っておく方がいいでしょう。

 

部下が自分でタスク管理ができていない場合

自分で道を作る力がまだないので、道を具体的に示して何をやったらいいのか相手がわかるようにすることが求められます。これは可燃性の人、不燃性の人に多い傾向です。

つまり、ほとんどの部下はこちらのタイプと思っておきましょう。

私は、「力がまだない」と表現したのは、これは訓練することで鍛えることが出来る一つのスキルだからです。なので、これが出来ないからと言って部下を見限ったりするのではなく、まだスキルが身に着いていないと考えて、そのスキルを身に着けてもらうためのアプローチを考えることも上司の大切な仕事だと考えています。

 

何かのプロジェクトを動かすにあたって目標設定をするときなどに、部下にこのスキルがあるかどうかが見えやすくなります。

例えばプロジェクト全体の目標を説明した上でそれを各自の目標に落とし込んでもらう際に、上位目標をそのまま自分の目標にスライドさせて設定してしまうような部下であれば、自力でタスク割りをすることはまだ出来ていない可能性が高いと言えるでしょう。

 

 

自分を知ること

 

続いて、自分自身のことです。

相手のことは客観的に見れますが、自分のことを客観的に見るとなると、そう簡単にはいかないのが人間です。

ほとんどの人は主観の中で生きていますので、自分を知るためには、意図的に主観を外して外から自分をみる目を持っておくことが必要です。

 

管理者としての自分が果たすべき責任と成果は何か

 

客観的に自分の立ち位置を見定めます。

部下に役割と責任を知ってもらうのと同じように、自分もまた、どんな役割を担って、どんな成果を求められているのかを把握しておくことが大切です。

 

これがないと、自分がどのように動けばいいのか、軸が定めることができません。その状態のまま部下を指揮しようとしても、場面や状況によって自分の軸がずれてしまうため、部下から不信感を買ってしまう可能性が高くなります。

「ブレない」軸を持っておくことは、とても大切なことです。

 

 

管理者としての自分のキャラ把握

 

キャラ把握などと言うと少し軽い感じがするかもしれませんが、これも大切なことです。

部下のタイプを分析することについて上述しましたが、同じように自分がどういうタイプの上司であるかを客観的に見る目を持っておくことも重要なことです。

それは、リーダーとしての在り方は、一様ではないためです。

例えば、世界にはたくさんの国がありそれぞれの国でトップの指導者がいますが、その指導者の姿は様々で歴史的に大きな成果をあげた指導者を見てみても、その指導者のタイプは千差万別です。

 

例えば、インド独立運動の中心的な指導者となったマハトマ・ガンディーさん、彼の有名な思想は「非暴力、非服従」です。ここでちょっと想像してみてもらいたいですが、ガンディーさんがナポレオン皇帝に憧れていたと仮定してみて、ガンディーさんが同じようにふるまったとしたら、どうだったか。

ナポレオンは強いカリスマ性を備え、数々の武勇伝を誇る豪傑で、彼もまた、まぎれもない指導者です。

ではガンディーさんが、ナポレオンのように振舞って、指導者としてその名前が後世も語り継がれるようなことになっただろうか?これは、かなりイメージが難しいのではないでしょうか。

人はそれぞれ自分のカラーというものを持っています。そのため、自分のカラーにあったリーダー像というものを考えておく方が良いのです。ちなみに自分のカラーというのは時がたつにつれ変わっていくものだと、私は思っています。

 

 

 

私が親しくしている、仕事でも繋がりのある会社の社長さんの話です。

彼と私は同じ年ということもあり、不思議と気も合うので一緒に食事をしながら話すことも多いのですが、彼は私とは全く違うタイプのリーダーです。ある時、こんなことがありました。

年度ごとの昇級結果が出た後に、社員から面談の依頼があったそうです。その社員は、自分で思っていたより低い評価だったので、社長に直接「なぜ自分の評価がこんなに低いのか」と言いに来たのです。(日本では珍しい光景だと思いますが、ベトナムではこれは結構普通だったりします。)

 

その時の社長の行動がどうだったか。まずは一通り話を聞いたそうです。その後、言い分はただのワガママであり論理に正当性がないと判断するや否や、「だったら、もう明日から来なくていいよ」とバッサリ。その社員はまさかいきなりそんな展開になると思っておらずあわてて弁解しましたが、もう後の祭りです。なんとかすがろうとすればするほど、逆に社長の反感を買ってしまうことになりました。

 

「思い切ったことするなぁ」と私がいうと、「いや、そりゃそうでしょう。何か自分が評価する際に見落としていることがあったのかなって最初思ったけど、よく話を聞いたら完全に自分の都合しか考えてない内容だったから。普段からチームワークが大事だって言っている中で、そんな人の言い分を自分が率先して真に受けてたら、他の社員も「そんなこと言ってもいいんだ」って勘違いされるかも知れないし、そうなると、他のみんなが困る。そういう考え方はうちの組織では認めないってことを、この際はっきり知ってもらう必要があったから」と。

外資系企業では、こういうことは珍しくないのかもしれませんが、日系企業でここまでやる人は少ないと思います。

 

 

確かに言うことには一理あります。手厳しいようですが、そもそも職場は学校ではないので、上司がそこまで手取り足取り教えてあげる義務は本来はないのです。

 

このエピソードだけで見ると、とても冷酷な人物のように聞こえるかも知れませんが、では彼の会社の雰囲気はどうか。皆、社長の一挙一動におびえながら仕事をしているのかと言うと全くそうではなく、皆とても伸び伸びと仕事をしており、それぞれのメンバーがしっかり個性を発揮して活躍しているのです。

決して、恐怖政治を敷いているわけではないことが、社員の様子を見ているとわかります。

 

そして、彼自身の仕事っぷりは「丁寧」の一言に尽きます。新たな案件などで打ち合わせをするとき、彼はいつも事前に調査を行うのですが、相手が何を知りたがっているのかを先読みする能力の高さと、それにマッチする情報を「ここまで調べたのか」と舌を巻くほどに丹念に調べてくるマメさ、そして見やすい資料に仕上げる器用さには毎回驚かされます。

そして、社員への仕事の任せ方も非常に的確です。

社員の性格や仕事の進め方を理解した上で、大胆に仕事を任せます。見ていて、「これは社員もやりがいを感じるだろうなぁ」と感心します。彼の「明日から来なくていいよ」発言は、そういった彼の他の要素すべてと連動することで、一層「仕事には妥協を許さない」という彼の強い信念として社内に浸透しているのです。

 

 

では、仮に同じ場面で私が彼と同じことをやったらどうなるか。

これまでの経験上、もし私が同じことをやったらすごく嫌味な人物にしか映らないと思います。実際に彼にそう言ったところ、「うん、確かに」と納得していました。(笑

私は彼のことを強いリーダーとして尊敬していますが、そのスタイルを私はそのまま真似しようとは思いません。彼には彼のキャラクターの下で成り立つリーダー像があり、私には私のキャラクターの下で成り立つリーダー像があるのです。

 

自分のキャラクターを理解した上で、変に自分が無理することのない「リーダーとしての在り方」については、常に考えておく方がいいでしょう。

 

ちなみに私のリーダーとしての在り方ですが、一つ言うと「心理的安全性の高い組織を作る」ということを非常に重視しており、そのための雰囲気をいかに作るかを考えて行動しているところがあります。

 

心理的安全性の高い組織を作るために

心理的安全性が高い環境というのは、組織のメンバーが他のメンバーや上司から承認されている感覚があり、メンバー同士で安心してお互いなんでも言い合うことができる環境のことです。この承認とは、「相手の存在を認める」ということで、メンバー同士で「お互いを理解している(しようとする意欲を持っている)」ことや「ここが自分の居場所なんだ」と感じることができていることです。

 

フラットな関係を心がける

こういった組織の空気を生み出すために私が心がけていることをいくつかお伝えします。

具体的には、次のようなことです。

 

「さん」付けで呼ぶ

私は自分の部下に対しては、自分より年上だろうと年下だろうと関係なく、その人を呼びかけるときは「**さん」と呼びます。人によっては、部下のことを「**君」と言ったり、名前だけ呼び捨てにする方もおられると思いますが、私はできるだけそうしないように心がけています。

私は「相手が社会的に地位のある人ほど親しみを込めて接する、相手が組織的に見て自分より下位であったり年齢的に下である人ほど、敬意を持って接する」のが良いと思っています。

 

社会的に地位の高い人は、普段から周囲の尊敬を集め、多くの人に敬われることに慣れています。そしてそんな人に少しでも近づきたいと思い、すり寄ってくる人も多いものです。

そんな中で自分も同じように振る舞っても、相手からの印象は「自分に近寄ってくる大勢の中の一人」としてしか映らないでしょう。

そういう人ほど、できるだけ気軽に親しみの気持ちを持って、丁寧に接することの方が、相手から変な下心を疑われたりせずに自分のことを受け入れてもらいやすくなると考えています。(敬意を持つことはもちろんですが、それを前面に出すのは控えます)

 

逆に、まだ組織に入って間もない人や組織において地位の高くない人にとっては、誰かから敬われる機会というのは少ないものです。その組織の風土によっては、ぞんざいな扱いを受けてしまうこともあるかも知れません。

でも、上司である自分にとっては、どんなメンバーでも組織を支えてくれる大切な一人であることは間違いありません。人はみんなそれぞれ違っていて当たり前ですし、組織というのは、そういうそれぞれ違う人達が集まって、それぞれひとりでは出来ないような大きいことを成し遂げるためのものです。

役割や立場が違っていて当たり前、その組織を束ねる立場の上司が一人一人を敬う気持ちを持てないと、組織というのは力を発揮できなくなると思っています。

 

これはすべての人に当てはまるものではないですが、そうすることの方が物事はうまく進むことが多い、そんな風に私は考えています。

 

 

部下が自分より優れているところはなんだろう、と考える

 

相手に敬意を持って接することが出来るか、ということにも繋がるのですが、上司である自分から部下を見た時に「これに関しては、この人にはかなわないなぁ」と思えることをどれだけ発見できるかは、大切な視点だと考えています。

上司があらゆる点において部下よりも優れている、なんていうことは有り得ないと考えておく方がいいでしょう。もしそう思ってしまったら、「あ、ちょっと自分は危ないかも知れない」と思うぐらいがいいです。

 

実際、相手が自分より優れている点を意識して見ると「この人は、これがすごく得意なんだな」と感じることが多くなります。

そういう一人一人の特性を知っていくことが仕事を割り振っていくときにとても大切なことであり、お互いの信頼関係を築くことにもつながっていくと、私は考えています。

相手のことを敬う気持ちを持って接すれば、それは不思議と相手にも伝わるものです。そして、その逆もまたしかり。

こういった自分の気持ちを律する心の強さは、上司に求められる素養の一つだと思います。

 

 

 

オーケストラの指揮者のように

組織をマネジメントする立場にある人の理想像を考えるとき、私はよくオーケストラの指揮者を想像します。ご存じのとおり、オーケストラというのはたくさんの種類の楽器奏者があつまって構成されています。

そして一人一人の演奏者は、その卓越した演奏技術ですばらしい音を奏でることが出来ますが、一人の演奏者、ひとつの楽器ではオーケストラのような壮大な楽曲にはなり得ないのです。

一つ一つの楽器の特性をよく知り、その演奏者のことも知っている指揮者がいて、初めて全体としての統制が取れるのだと思います。

組織においても、同じことが言えると思います。組織を構成するメンバーは、皆それぞれ専門分野や得意分野を持っている。それを活かすも殺すも、指揮者である管理者次第というわけです。

組織の個性を活かせるかどうかは自分次第である、管理者がそれを自覚しているかどうかは大変重要なことだと思います。

 

 

組織管理者としての3つの心構え

 

私が考える、組織管理者が持っておくべき心構えについて説明します。

 

組織の長として人を束ねる立場にある人は、組織の規模を問わず、次の3つの姿勢が求められます。

 

潔いこと:素直な気持ちで物事を見て、事実のありのままを受け入れる潔い心を持つこと

逃げないこと:やるべきことから逃げずに向き合う心の強さを持つこと

愛情:相手を思いやる気持ちを忘れず、常に愛情を持って人に接すること

 

 

潔いこと

ドラッカーは著書「マネジメント」で、マネージャーに必要な資質として「真摯であること」と述べています。潔いことは、真摯さとも通ずるところがあります。偏見や先入観に染まらず、事実をありのままに受け止める潔さ、心の真摯さを持っておくことは、とても大切なことです。

先入観や偏見に凝り固まったものの見方や考え方をするような人に、人はだれもついていこうとは思いません。

決断をするときも、潔さが求められます。管理者は判断の速さが極めて重要です。自分がしたくないことでも、やるべきことだと判断すれば迷わず決断する、すっと頭の中を切り替えて、いつまでもグズグズ悩まない。自分が間違った時は、その事実をしっかり認めて、次から同じことをしないように正す、そんな潔さが必要です。

 

 

逃げないこと

人を束ねる立場にある人は、権限が与えられるのと同時に大きな責任が伴います。それゆえ、思わず逃げ出したくなるような場面、矢面に立たなければならない場面にも多く遭遇します。

そんなとき、つい逃げたくなる自分の気持ちを戒め、そこから逃げずに正面から向き合う心の強さを持っていることが大切です。

例えば、ミスをした部下に対して指導をしなければならない場面なども、そうです。間違いを指摘されるのは、誰しも嫌なものです。「こんなことを言ったら、相手から嫌われるかもしれない」と思う気持ちは自然なことですが、それで楽な方に逃げて何もしなければ、どうなるでしょうか。事態はもっと悪い方向へと向かってしまうでしょう。

自分の好きや嫌いで道を選ばず、正しい道を見定め、たとえ困難であったとしても(経験上、困難だなと思うことの方が正しい道であることが多いのですが)、それが正しいと信じる道であれば迷わず進む、そんな心の強さが求められます。

そういう強さに触れて人は安心感を覚え、この人についていこうと思うことが出来るのだと思います。

 

愛情

これは恋愛感情の好き、嫌いではありません。相手を敬い、思いやる気持ちです。人を束ねる立場の人は、時に、間違った考え方や行動をする組織メンバーに対して誤りを指摘し、組織全体の向かう方向を整えていかなければなりません。

このとき、相手への愛情を持てないと、ついつい自分の苛立ちがそのまま言葉に載ってしまいます。他者は自分の思い通りにはならないことを知り、相手を責めるのではなく、相手の目線に立って相手に伝わるようにしなければなりません。

心の中でしっかりと、あなたのために(For you)というの気持ちがあれば、伝えなければならない内容が相手に取って厳しいものであったとしても、それは必ず相手に届きます。

反面For you の気持ちがなければ、簡単に相手から見透かされてしまい、信頼関係を積み上げることはできなくなるでしょう。

 

ちなみに「愛情の反対語は無関心である」というのは有名な言葉です。人に対して無関心な人が、いったいどうして人を束ねることができるでしょう。

 

まとめ

部下とどのように信頼関係を作るのかについて、要点を整理します。

 

行動を管理しようとしないこと:

行動を管理しようとすると失敗する

 

上司としてすべきことを認識しておくこと:

部下の役割と、出して欲しい成果が何かをはっきりさせ、それが相手に伝わっているかどうかをこまめに確認しながら伴走すること

 

部下が困っているのか、困っていないのかを見定めること

相手のことを知ること

自分のことを知ること

 

心理的安全性の高い組織にするために

フラットな関係を心がけ、相手を「さん」付けで呼ぶ

部下が自分より優れているところを探す

 

・3つの心構えを持つこと

潔いこと

逃げないこと

愛情

 

 

おまけコーナー(おすすめ書籍の紹介)

 

これから部下を持つことに不安を感じている人に読んでみてほしい本を3冊選んでみました。

どれも良い内容の詰まった本なので、部下の有り無しに限らず、是非おすすめしたい3冊です。

 

 

岩田さんはこんなことを言っていた

任天堂の元代表取締役社長であった岩田聡さんが生前に語られていた内容を集約した本。

部下を持つ立場になったら考えていかなければならないこと

部下との接し方、自分のあり方、上司としての仕事、

魅力的な人とはどんな人か

こういったことが岩田さんの語り口調でぎっしりと詰まっています。

岩田さんが色々なところで実際に語られたことがベースになっているので、

筋道だててリーダー道を話しているわけではありませんが、

随所から「人の魅力」というものについて、感じることができます。

 

学びを結果に変えるアウトプット大全

著者である脳科学者の樺沢紫苑さんは、アウトプットについて右に出るものが無いぐらい圧倒的なアウトプットを日常的にされています。そんなアウトプット・エキスパートによる「科学に裏付けられた、伝わる話し方」が具体的で実践しやすく紹介されています。

話すにしても、どんなことを気にして話せばいいか、人はどんな情報をどのように受け止めるのか(メラビアンの法則)、アイコンタクトの取り方など。

一つ一つの項目がとてもコンパクトにまとめられているので読みやすいのと、脳科学者である著者の医学的・科学的根拠に基づいた説明にはとても説得力があります。

 

 

楽しくなければ仕事じゃない

世間一般に言われている「大切なこと」、だけど人が悩み迷いやすい「大切なこと」に対して、少し視点をずらすことで新しい価値観を見出すことができると著者である干場さんは言います。人はどういうことに悩むのか。その悩みから解放されるには、問題の焦点となることに対して、どのような光の当て方をすればよいのか。

自由で、しなやかで、ポジティブに。そんな生き方や視点を手にするとともに、部下が思い悩んだときにはどのように考えるのがよいのかを示してくれる本です。

 

 

 

以上です。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。