AI、IoT、5G、ブロックチェーン、こういった技術が今から私たちの住む世界を大きく変えていく、これはもう誰もが感じていることだと思います。
では、具体的にどう変わっていくのでしょうか?
明確なイメージをするのは、意外に難しいかもしれません。
今回紹介する本には、著者・中村伊知哉さんの考える未来が示されています。
20年前のデジタル、10年前のスマートという変化を経て、次はAI・ロボットの大波がやって来る、超テックが人類を次のステージへと連れていく。
一体どんな社会になるのでしょうか。
本の概要
これからは、今までに人類が足を踏み入れたことのない超テックの社会となる。
超テックが人から今までの仕事を奪う。たくさん奪ってくれたら、人はヒマになる。そのとき、人はどうするのか?
悲観していても仕方がない。AIをマネジメントして、使いこなそう。
超ヒマ社会は、超ポップ、超スポーツ、超教育、そしてそれらを活かす超都市の社会。
超ヒマ社会を想像して、創造しよう。
著者・中村伊知哉さんの示す超ヒマ社会についての情報がぎっしりと詰まった、密度の高い1冊です。
超ヒマ社会はどんな社会?
一般にAIと呼ばれるものには2種類あります。1つは、特化専門型、もう1つは汎用型。
これまでに開発されてきたAIは、ほぼ全て特化専門型。けれど、いずれ汎用AIも登場し、それが人の今ある仕事の多くを奪っていく、そうして人の仕事は1割ぐらいになってしまう、そんな分析をする専門家もいます。
それは、どういう状態でしょうか。
著者はこんな風に考えています。
人口の1割だけが働いて、9割が遊んでいる、という姿は想定しづらい。
ほとんどの人がちょっとだけ、ちょっとずつ働いている、ってことになるんじゃないか。それも、働いているんだか遊んでいるんだか判然としない、そして結構忙しくしている、って感じに。
AIが仕事を奪ってくれる。ぼくらは彼らに仕事を委ねてやる。
だからといってボーッと生きることは多分なくて、代わりの仕事がわらわらと生まれてくる。空いた時間にすべきことがエンタメにしろ創作にしろ恋愛にしろ、ぎっしり現れてくる。
超ヒマ社会は忙しい。
そして、超テックがもたらす「超ポップ」、「超スポーツ」、「超教育」、それらをつなぎ合わせて融合する「超都市」が生まれると著者は言います。
超ポップとは何か
日本はポップカルチャーの国です。
マンガ、アニメ、ゲーム、音楽、ヒーロー、フィギュア、ファッション、食。日本独自のポップカルチャーを生み出す想像力と表現力、そしてそれらを実現する高度な技術力と職人の存在は日本の強みとして今後一層価値を持つようになります。
また、コミケ、カラオケ、コスプレ、B級グルメなど、それらを好きな人たちが全員で参加して、生産して、消費する、混沌とした産業文化力も日本の大きな強みの1つ。
超テックの登場で、これらのポップは、よりリアルに、より高度に、より仮想現実となり、超ポップとしてもたらされます。
超スポーツとは何か
21世紀のスポーツはVR、AI、IoTが浸透した情報社会のスポーツと言います。一体どのようなものでしょう。
19世紀のスポーツは農業社会のスポーツ、20世紀は工業社会によるモータースポーツ、
では、21世紀の情報社会のスポーツとは?
競技者は、テクノロジーを全身にまとっているかもしれません。ゴーグル、外骨格スーツ、スーパー義足とスーパー義手、立体機動装置を身につけて、陸海空の全てを使って動き回る、IoTと5Gによって選手と観客はシンクロし、VRによって選手の視点で観客も観戦でき、選手の感じている感覚を観客もリアルタイムで共有するかもしれません。
その頃は、スポーツは競技場を飛び出して、あるいはスクランブル交差点、あるいはシャッター商店街、あるいは廃墟ビル、あるいは世界遺産で、プロジェクションマッピングとドローンの技術によって、地球上の様々な空間と溶け合い、みんなで集まって、みんなで楽しむ。
健常者も障害者も、老人も若者も、同じルールで参加できる、そんな超スポーツができているかもしれません。
超教育とは何か
超ヒマ社会は、超教育社会だと著者は言います。
2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶教授は、科学者を目指す子供達に向けて「教科書を信じるな」と説いたそうです。教科書に乗っていることを鵜呑みにせず、自分の目で見て、教科書を疑い、自分の頭で考えるようにと。
これからの教育において、教科書は無くなっていくのかもしれません。
AIやテクノロジーにより教育の環境は大きく様変わりし、語学や歴史の先生はいなくなってしまうかもしれません。
苦労して時間をかけて脳に詰め込んだようなものは、あまり必要とされなくなる時代になります。
日本の教育は遅れていると指摘した上で、教育のデジタル化で時代に対応できる能力が求められ、AIを使いこなすコンピューターサイエンス、STEAM(科学、技術、工学、アート、数学)、哲学、そういったものが教育に必要であると言います。
例えばこんな学校の準備が、実際に進んでいます。
授業の大半がオンライン形式。学ぶ場所は選ばない。
講師は世界の著名教授、研究者、専門家。講師の出身企業も様々。
英語でビジネスができる能力を養うことを前提に、授業は英語で進められ、英語を教えるのではなくて、英語で学ぶ。
全員が企業のインターンに行く。学校もインターン先の企業と連携してプロジェクトを用意。大学でも独自で会社を設立、全学生が入社する。学費を自分で稼ぐ経験を積む。
卒業するまでの期間に、すべての学生が一度は起業する環境がある。会社を作ることに挑戦できる。大きな人生の経験となる。
世界のトップ大学と連携、海外の大学キャンパス利用のための共通パスポートの仕組み。
eスポーツ部を作り、部員をeスポーツの世界選手権へ送り込む。
校舎から世界に向けて番組を発信する、学生が運用する放送局がある。
すごい、と思いました。こんな構想で、実際に著者が中心のプロジェクトが進んでいます。
学ぶことの質が、これまでとは全く変わってしまう(変わらなければならない)ようです。
想像力と表現力を底上げし、AI、データサイエンス、統計、プログラミング、STEAMなどの先端技術を使いこなし、課題解決力、創造力といった次世代に求められるスキルを強化させる、そんな超教育の社会へと変わっていきます。
デジタル国家戦略特区「Cip」とは何か
研究開発、人材育成、起業支援、ハブの4つの機能を持ち、ポップ、スポーツ、教育などの分散したプロジェクトをつないで集約し、融合させるプロジェクト、それがCipです。
Cはコンテンツ、iはイノベーション、pはプログラム。コンテンツ・イノベーション・プログラム、Cipと書いて「シップ」と読みます。
デジタル国家戦略特区、というとちょっと想像しにくいかもしれません。
これまでにあげた、超ポップ、超スポーツ、超教育が融合した街、それは一体どんな風景でしょう。
ガンダムが動いている。ロボットが店を経営していて、子どもと学生が遊んでいて、政治サミットとコスプレサミットとeスポーツ世界大会が開かれている。そしてレバ刺しが食える街。
そんな街が本当に実現するかもしれません。(レバ刺しが食べれるのは、特区だから)
ちなみに実物大のガンダムを動かそうというプロジェクトはすでにあるそうです。
等身大のガンダムを動かすプロジェクトがCipとは別に進行しているが、動くと重機扱いを受けるそうだ。方向指示器をつけるなどの規制を受ける。
「右に曲がります」などとガンダムに言わせるのはかわいそう!彼が自由に動ける特区にしたい。
だそうです。
いろんな一流のすごい人たちが集まって、馬鹿げていると思われるようなことを、寄ってたかって考える。
なんだか、すごく楽しそうな街が出来上がりそうです。
超ヒマ社会を迎えるために必要なこと
これから私たちが迎える変化は、どのようなものでしょう。
デジタル、スマートの次に来るAIの波は、同じようなひとまとまりの波に見えて、実はこれまで人類が経験していない、波というよりも、月が太陽に交代するような、海が陸地に姿を変えるような、生態系を揺るがす変動だ。
高揚感に包まれるが、見通しは利かない。
AIを使いこなす知恵
そんな変化に向けて必要なものとして、著者はこう言います。
働いて働いて冬を越すアリはAIが担う。ぼくらは芸術に打ち込むキリギリスとなる。うまくAIを働かさなければならない。
アリとキリギリスの話を学校で習った時、キリギリスはなぜそうなってしまったのかを考えたことがあったと思います。
食べ物がなくなったからでしょうか。遊んでばかりいたからでしょうか。
著者は、それでは答えが足りないと言います。
アリをマネジメントする能力がなかったから。これが正解となる。
今から起きる変化に対して、何も備えることなく今だけしか見ずに生きていたら、著者の警告することは現実になってしまうのかもしれません。
見通しが利かなくても、できることはあリます。
AIを開発できなかったとしても、使いこなすことで恩恵を受けることはできるはずです。
まずは使う意思を持つ。まずは使ってみる。
そこから開けるものがあるのではないでしょうか。
変化を楽しむ気構え
予測できない時代、変化し続ける社会、そんな時代に対応するために必要なことは、変化への対応力です。
どれだけ多くの変化に対応してきたのか、どれだけ多くの経験値を積んだのか、どれだけ環境の変化を経たのか、それらが価値を持つようになります。
役所や大企業で定年を迎える方が「つつがない職業人生でした」とあいさつして花束を受け取る。もうそれは立ちいかない。てゆーか、「つつがある」人生が推奨される。変化につぐ変化で波乱万丈でございました、が花束だ。
”変化を楽しむ覚悟”が最も大切。
私たちは普段、自分たちの生活環境の中で生活しているので、大きな時代の変化を日々の中で感じることは難しいものです。
しかし、先端を走り、未来を作っていこうとする人たちの考えていることに触れたら、また違った将来を感じることができるかもしれません。
この本で書かれている未来は、時代の先端を走っている中村伊知哉さんが考える未来の、1つの形です。
けれどそれを鵜呑みにしなくても良い、私たちは、私たちの未来を考えることもできます。
明るく楽しい「超ヒマ社会」に向けて、楽しく想像して創造する、そんなきっかけを与えてくれる本です。
余談ですが、本書の超スポーツのところで興味深いものがありました。
meleap社の「HADO」というもの。
HMDとアームセンサーを装着し、AR技術とモーションセンシング技術で「かめはめ波」を繰り出す競技。フィールドを動き回り、手足を動かしながら、バーチャルな世界で戦う。
だそうです。
これはすごく面白そうで、やってみたいと思いました。2019年2月時点で、23カ国59ヶ所で展開されているそうです。日本でもハウステンボスにあるのだとか。
私が知らないだけで、どんどん新しいものが生まれています。
以上です。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。
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