20年来の友人と久しぶりに会った時に「ぜひ読んでほしい」と勧めていただいたので、その場でスマートフォンを取り出してアマゾンで注文して読んだのが、今回ご紹介する「蓮香の契り 出世花」です。(ほんと、便利な世の中になりました)
江戸時代、文化3年ごろを背景に書かれた時代小説です。弔い専門の墓寺で、死者の亡骸を洗い清める「三昧聖」と呼ばれる、22歳の主人公お縁の物語。読んでから分かったのですが、本作は「出世花」というタイトルの前作があり、今回私が読んだのはシリーズ2作目でした。
短編集の様式になっているので、ひとつひとつの話は完結しているので2作目から読んでも全く問題なかったのですが、全体の時間軸としては大きな流れがあるので、なぜ私の友人はいきなり2作目から勧めたのだろうという素朴な疑問を感じながらも、読み始めるやいなや、すぐ物語に引き込まれました。
三昧聖、という言葉は今回初めて知りました。亡くなった方の埋葬に携わる人のことで、亡くなった方の遺体を湯灌(ゆかん)場で洗い清めながら、死者の無念や心残りを取り除き、きれいな状態で尊厳を持って旅立てるようにするための処置をする人のことを指しています。現代ではそのような処置のことをエンゼルケアと呼ぶことも、初めて知りました。
この湯灌の持つ意味を思うとき、とても大変な内容だけれども、亡くなった方だけでなくご遺族の方にとっても救いとなることで、決して侵してはならないとても大切な何かがあると感じたのですが、少し調べてみて三昧聖の方が一部で差別の対象となっていたことを知って、驚きました。
実際に物語の中でも、お縁のことを心から慕う人もいれば、「屍(かばね)洗い」と蔑む人もいて、非常に悲しい思いがしました。
お縁の物語を通じて描かれるのは、生きる意味の模索、そして死別の悲しみと魂の救済です。
主人公のお縁は、多くの人の死に立ち会う中で「自分は一体何者なのか」「何のためにこの世に留まるのか」と自ら問い続け、苦しみます。その悩みは、現代に生きる私たちにも重なり、人の死別を通して自らの生きる道を見つけ出そうと懸命に生きるお縁の姿に惹きこまれてしまうのです。
どのような形であれ人は必ずいつか命の終わりが来ます。愛憎渦巻くこの現世で、人の死別には様々な形で悲しみが生まれます。本作でも4つの美しい物語を通してそれが描かれていました。
お縁の物語に描かれる、生きる上での苦悩や死別の悲しみに現代の私たちの姿を重ねながら、その悲しみは長い時間とともにやがて懐かしさや愛おしさへと姿を変えていく様を感じます。そして、願わくばお縁と同じように、苦悩しながらも毎日を丁寧に生きたいと思わせてくれる、それがこの物語の素晴らしさです。
この物語は本作で完結しています。読み終えた時には、長い雨の後にそれまで暗かった空の雲の隙間から、爽やかな風とともに陽の光が差し込む光景を見たときのような、とても心洗われる静かな感動がありました。
友人に代わり、私もぜひお勧めしたい一冊でした。
以上です。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。
最近のコメント