「会えるってことだけで、奇跡みたいなものだと思う」 – 小説 ほしのこえ-

読書でアウトプット

わたしはね 懐かしいものがたくさんあるんだ

たとえば夏の雲とか 冷たい雨とか

秋の風の匂いとか 春の土のやわらかさとか

夜中のコンビニの安心する感じとか

放課後のひんやりとした空気とか

黒板消しの匂いとか

夜中のトラックの遠くの音とか

ノボルくん そういうものをね わたしは

ずっとずっといっしょに

感じていたいって思っていたよ

 

今回紹介する本は、冒頭の出だしから始まる「ほしのこえ」小説版です。

小説版と書いたのは、この「ほしのこえ」にはアニメ版、コミック版があるからなんですね。そして、アニメ版というのは「君の名は」や「天気の子」でも有名な新海誠さんの一番最初に発表したアニメーション作品です。

原作は25分足らずの小さなアニメーション作品なのですが、私はその作品を見てすぐにすっかり虜になってしまって、「これはいったい誰が作っているのだろう?」と調べると、「秒速5センチメートル」という作品で有名になっていた新海誠さんでした。(その頃はまだ「君の名は」が発表される前だったので)

私はその時初めて新海誠さんの作品に触れたのですが、映像の美しさはすでに確立されていて、そしてその世界観にすっかり魅了されてしまいました。「秒速5センチメートル」もその後にすぐに見て、やっぱりその世界観にはまり込み、エンディングの切ないピアノ曲を聴いて「自分もこれを弾けるようになりたい!」と勢いで電子ピアノを買ってしまったぐらい、好きでした。

話を「ほしのこえ」に戻します。

アニメ版では、最新の新海誠さんの作品と変わらない情緒的で美しい世界がすでに表現されているのですが、ストーリーという視点でいうと、「え、ここで終わるの?」という印象が残っていました。その先はどうなるんだろう、というモヤモヤ感があったのですが、その後にコミックス版を読んで一旦はスッキリとしていました。(コミックス版では、絵は佐原ミズさんが書かれていて、これもまた素晴らしい)

今回改めて小説版があることを知ったので、これは読まねばならぬと思い、手に取ったのでした。

実際に読んでみると、アニメやコミックスでは出てこなかったエピソードがあったり、コミックスではクローズアップされていたエピソードが小説版では最小限の描写で留められていたり、とそれぞれに差があって、もうすでにストーリーは何度も見て知っているにもかかわらず全く退屈することなく読めました。

また、小説版のほしのこえではこれまでハッキリと語られていなかった部分や描写されなかった部分がクリアーになっていて、「あぁ、これでこの物語は完結したんだな」と思うことができました。

 

「ほしのこえ」の物語を一文で表現するならば、

異星人とのファーストコンタクトをベースにして、時間と空間に引き裂かれる少年と少女の心の交流を描いた超遠距離SF物語

ということになります。

私がこの作品を通じて感じてみてほしいと思うことは、次のようなことです。

地上と宇宙に引き裂かれてしまう若い恋人たちのピュアな心

永遠というのと変わらないぐらい遠く遠く離れても、切ないほどに相手を大切に想う気持ち

 

また、大切な人が近くにいてくれることの素晴らしさや、好きな人に好きだと直接伝えることができることの素晴らしさを感じ、今大切にしたいと思っている人を一層大切にしようという気持ちにもさせてくれる、そんな作品です。

 

読むとちょっと切なくなる様な恋の物語が好きな方、SF要素のある小説が好きな方には、ぜひお勧めしたい作品です。

それと、新海誠さんの映画をみて新海誠さんの世界観が好きな方にも、やはりお勧めです。

冒頭のところで本文を引用しましたが、いくつかの情景をたとえた表現が出てきています。

こういった情景について、感覚を思い出すことができたなら、そしてその感覚が好きだなと感じるなら、きっと「ほしのこえ」の世界観も気に入ってもらえると思います。

この作品には、長峰美加子(ながみね みかこ)と寺尾昇(てらお のぼる)という二人が登場するのですが、彼らがお互いを思う気持ちにとても心が動かされます。

一部、作品から引用して紹介します。

あした、艦隊はまた、ワープすることになりました。

今度は、ショートカット・アンカーを使っての思いっきり遠くまでのジャンプ。地球からだと8.6光年の場所。

ミカコはほんとに、遠い遠い宇宙へ行っちゃうんだよ。これがどういうことかというと、これからは、お互いのメールが届くのに、8年7ヶ月かかってしまうってこと。

わたしたちは、まるで宇宙と地上に引き裂かれた恋人みたい。

次のメールが届く時、ノボルくんは24歳。

ミカコのこと、忘れないでいてくれるかなあ。

 

「大人になるには痛みも必要だけど、あなたたちならずっとずっと先まで、もっと遠い銀河の果てまでだっていける。・・・だから、ついてきてね。託したいのよ、あなたたちに」

 

「だけどわたしは、ノボルくんに会いたいだけなのに・・・・。好きって、いいたいだけなのに・・・」

 

『24歳のノボルくん、こんにちは。15歳のミカコだよ』

たった二行のメールだった。あとはノイズで判読不能だった。だけど、届いたことだけでも奇跡だと思った。

ミカコの思いが、遥かな時間と空間を超えて、伝わって来たのだと。

15歳のミカコは、ぼくに何を伝えたかったのだろう?

いま、24歳のミカコは、どこにいて何をしているのだろう?そして、何を思っているのだろう?

会いたいと、切実に思った。

 

私はこの小説を読んだ後で、改めてアニメを見てみたのですが、そこで新しい驚きがありました。

小説版を読んで確かに物語が完結したという感じを受けたのですが、改めてアニメを見て感じたのは、この作品のエッセンスが25分のアニメーションの中で凝縮されていて、この作品を通じて新開誠さんが伝えたかったことそのものは短いアニメーションの中にすでに網羅されていた、ということでした。

「ほしのこえ」は新海誠さんの最初の作品だったのですが、新海誠さんはこのアニメーションを完成させるためにそれまで勤めていた会社を辞めています。

なぜ新開誠さんが当時勤めていた会社を辞めてまでこの作品を作りたいと思ったのか?

どんな「声」を届けたいと思ったのか?

それについても、小説版ほしのこえ の巻末で新海誠さん自身から語られていました。

新開さんが届けたいと思った「声」を、原作のアニメーションと、小説版のそれぞれを通じて、ぜひ感じてみてください。

 

 

以上です。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。

 

 

<原作:ほしのこえ> ※アニメーション作品

 

<小説:ほしのこえ>

 

<コミックス:ほしのこえ>