古い既成概念に挑んだ豪傑たち -日本の戦後を知るための12人-

読書でアウトプット

 

知っているようで知らない、というようなことは意外と多いものです。

今回ご紹介する本の内容も、そのような部類のものかもしれません。

日本の戦後から現在に至るまで、めまぐるしい成長と変化がありました。その過程において、古い体質や正しいとは言えない既成概念を塗り替え新しい日本の姿をつくるべく、それらの古い体制に様々な方法で挑み、戦ってきた人たちがいました。

そのような人たちはメディアでも盛んに取り上げられ、豪傑、変人、風雲児などともてはやされるため知名度は抜群です。そして、もてはされたかと思えば一転して痛烈に批判されることもしばしばあります。そんな人たちのことについて、私たちは果たしてどこまで正しく事実を知っているのでしょう。

一体これらの人たちがやって来たことは何だったのか、何で讃えられ、何で批判されたのか。日本の戦後に挑んだ12人についての池上流人物伝です。

 

本の概要

戦後の日本では、既成の体制に様々な方法で挑み、それまでの常識の流れを変え、壊し、新しい時代を作るための風穴を開けた人たちがいました。

そんな人たちは、皆から功績を讃えられる一方、社会から断罪されてしまったり大きく非難されているという側面も持っています。そんな豪傑たちがやって来たこととは、一体何だったのでしょうか。

功と罪それぞれの視点で、池上彰さんが彼らの人物伝を紐解きます。

 

本書の見所

本書では次の12人が取り上げられています。

・田中角栄

経済に関する数字にめっぽう強く、そして桁外れの行動力を持っていたため「コンピューター付ブルドーザー」と呼ばれた元総理。彼の未来を見通す力は本物だったのか?彼の行った政策は、果たして現代の日本を救っているのか?

・江副浩正

リクルートという会社を創設し、日本における巨大情報産業を築いた開拓者。当時の理不尽な就職差別に憤怒し、仕事の選択の自由を取り戻すために活躍した彼は、一体どこで足を踏み外してしまったのか。

・小泉純一郎

「自民党をぶっ壊す!」「感動した!」等のキャッチーなワンフレーズで大衆の心を鷲掴みにした、”変人”政治家。そして田中真紀子劇場。彼がもたらした「小泉フィーバー」の正体とは一体何だったのか。

・中内功

彼自身の戦争経験による「日本は二度と戦争をしてはいけない。戦後日本の人たちが腹いっぱいすき焼きが食べれるような社会にしたい」という想いから、安売りの商売に生涯こだわったダイエーのカリスマ経営者。求心力のある理念だったはずなのに、最終的にダイエーが経営破綻にまで追い込まれてしまった理由はどこにあったのか。

・渡邉恒雄

読売グループの頂点に立つ、読売新聞主筆。ジャーナリストという活動の枠に収まらず、政界、球界、財界と多方面に絶大な影響力を持つ渡邉氏は、一体どのようにしてそこまで上り詰め、今の権力を得るに至ったのか。

・堤清二

元セゾングループ代表であり、また作家・辻井喬としても活躍した詩人経営者。Loftや、今や海外にまで受け入れられるようになった無印良品など、堤清二流「自己否定」を徹底して貫き通す中で生まれたものだと知る人は意外に少ない。複雑な生い立ちの元で彼が繰り返した「自己否定」の軌跡に迫る。

・村上世彰と堀江貴文

90年代ITバブルを背景に急成長、「時代の寵児」と呼ばれた二人は一体どのような人物で、どのようなことをやって来た人たちなのか、そしてなぜ二人は実刑判決を受けるに至ったのか。また、その後二人は社会に受け入れられたのか?

・石原慎太郎

天真爛漫、無意識過剰。そんな風に表現される石原慎太郎氏。芥川賞受賞作であり太陽族という流行語を生み出す元になった「太陽の季節」では文壇に衝撃(とんでもない賛否両論)を与えました。また長く東京都知事の座にいる間も色々な問題発言を繰り返した石原氏の行動原理とは一体どのようなものか?

・池田大作と創価学会

今や国際的な宗教団体となっている創価学会に長く君臨する池田大作氏。創価学会とはどのような団体なのか、そして大きな権力を持つ池田氏の理想と現実について、政治と宗教の関係も見ながら解明していきます。

・上皇陛下と上皇后・美智子さま

2019年に生前退位され、明るいムードで始まった新元号は大きく歓迎されました。国民から広く慕われている印象の強い明仁上皇と美智子上皇后ですが、その過去にはマスコミから痛烈なバッシングを受けていた時期がありました。象徴天皇としての試行錯誤を重ねてこられた、これまでの軌跡を辿ります。

 

以上、ずらりと並んだ12名、皆それぞれ大物ぞろいです。簡単に内容を添えましたが、これらの豪傑たちについて、メディアの裏側にある素顔も含め踏み込んだところまでよく知っているという人は、意外に少ないのではないかと思います。

そこに池上彰さんが斬り込むのですが、とにかく池上さんの説明が面白い。そして歯に衣を着せない言い方が実に痛快です。小泉純一郎さんや、石原慎太郎さんなどに対しても、本当にもう容赦ない斬り込みようで、「えっ、そんな風に言ってしまって、大丈夫なの?」と思わず心配(夜道で刺されたりしないのだろうかと)してしまうぐらいの鮮やかさ。

そんな痛烈な表現もたくさん出て来ますが、そこに愛情のようなものが感じられるからまた不思議です。実際、池上彰さんは今回取り上げた方達について一定の敬意と人間愛を持って接しておられるように感じました。

また、感情だけで風評するようなことはなく、事実に基づいてフラットな目線で冷静に分析されています。

それは、江副浩正さんのパートでの次の一節にも出ているように思いました。

 

ただ、人間をいい悪いで断定はできないと思いますよ。江副さんだって、いい取り組みをしたのは明らかですけれども、カリスマ経営者になってからは社員から疎まれるようになったし、犯罪者の烙印を押されることになったのも事実なわけですね。人間ってそういうものなんだろうと思います。

 

今からは信じられないことですけど、大企業が就職内定を出すときは興信所を使って身元を調べ上げた。学生運動が盛んでしたからね。「近所に興信所がきて、いろいろ聞き込みをしていたわよ」と知らされると、ああ、内定したなと分かる、そんな時代でした。江副さんはそういう社会で就職差別、女性差別に取り組もうとした。このことは大きいですね。

江副さんが検察から狙われたのは、様々な規制を突破して秩序を破壊する異端児であったからでしょう。既成秩序の破壊者はどうしても狙われやすい。ホリエモン然り、村上世彰然り。いずれも有罪になっていますけれども、みな、稀代の風雲児としてさまざまな規制に穴を開けたこともまた事実だと思います。

巻末の方で、池上彰さんが「ジャーナリストとしての活動使命」について少し話されているところがありました。

基本は事実をきちんと伝えること。意見を押し付けないで、一人一人に判断してもらえるように正確な事実を伝えられるようにすること。

そんな使命感を持って活動されている池上彰さんだからこそ、今回の大物たちを取り上げて人物伝を語ることができたのだと思います。

 

読み終えた後に心に残るもの

私自身は1976年生まれで、ベビーブーマー世代とミレニアル世代の中間に立っています。今回名前が挙がった方達の中には、私が子供の時から成人するまでの過程で名を上げた方もおられました。

本書を読みながら改めてそんな方達の事を思うとき、「テレビや新聞で名前はよく見かけていたけれど、実際のところ詳しいことは何も知らなかったんだな」という思いでした。

本書では、それぞれの人物たちを追いながら当時の時代背景の描写もたくさん出てきます。現代の状況から当時を振り返ると、「ちょっと信じられないなあ」という印象を受けずにはいられないものもあります。(例えば過去の女性就職差別を表すものとして、募集要項の応募条件で『女性でも可、ただし容姿端麗である事』などが堂々と書かれていた、等)

けれど、それは大昔というようなものではなく実際にはほんの数十年前のことで、その頃はそれが「当たり前」と多くの人が当時の常識として受け入れていたことでもあったのです。

そう思うと、今自分を含め多くの人が「常識」と思っていることの確からしさなんて、果たしてどこにあるのだろう、と思わずにいられません。

池上彰さんは、作中で次のように述べていました。

 

日本には「けしからん罪」という罪があって、誰かが「あいつけしからん」と言い出すとそれに同調して、社会的に葬り去ろうとする動きがあるんですね。

「多くの人が普通だと思っているけど、本当は違うんじゃないか」ということを指摘し、従来の常識を破壊しようとするような人は、「あいつけしからん」と奇人変人のように扱われ社会から叩かれてしまいやすいのですが、もう少し時代が過ぎてから振り返った時には「あの時にあの人がやったことのおかげで、今がある」ということは今までたくさんあったし、それは今後も変わらないのだと思います。

令和という新しい時代に入っていますが、今の時代に当たり前とされている社会や生活は決して成り行きでできたものではない。かつての常識に挑んだ人たちがいた結果として今の社会があります。メディアからだけでは見えない、事実を見ようとする気持ちをいつも持っておくことは大切だなと感じました。

そして、人の行いというのはその時点だけで簡単に評価できるものではなく、ある程度の時間を必要とすることも意外と多くあるのだと、また、人の行いというものは、簡単に「良い」「悪い」という単純な構図で両断できるものでも無いのだと、本書から改めて学ぶことができました。

本書で取り上げられた12人は本当に著名人ばかりなので、個人の考えとして彼らに対して特殊な感情を持たれている方もいらっしゃると思います。あるいは、私と同じように、名前はよく知っているけれど実際にどういうことをやった人だったのか詳しくは知らないという方もいらっしゃるでしょう。

今の時代を作ってきた人たちは、どんな人たちだったのか。その功績と罪という両面から見ることで、今までとはまた違った印象を持つかもしれません。そして、それは今後のあなたにとって新しい発見や新しい視点をもたらす元になるのかもしれません。

ぜひ、チェックしてみてください。

 

以上です。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。