死を見つめることは、どう生きるかを見つめること。
有限を意識することは、「大切な今を無駄にしないで生きよう」という心構えに繋がり、人生を豊かにする。
死を意識して初めて生きることの「光」に気づく。
本文より抜粋
この本は、精神腫瘍学の専門家である清水研さんという精神科医が作者です。
清水さんは精神腫瘍学という「がん」専門の精神科医及び心療内科医の方で、がん患者やそのご家族の診療を専門的に行われている方です。
清水さんがこれまでに3500人以上の方と診療を続ける中で、多くのことを学ばれたと言います。そして、そのことをより多くの方に伝えたいという思いから、この本が生まれました。
柳のようにしなやかに
柳のようにしなやかに、立ち上がる力を人は持っている、清水さんはそう言います。
がんを告知された直後、人は思考停止になったり、現実から目を背ける方向に心が動くことが多いのですが、その気持ちの裏側で現実と向き合っていくプロセスが始まるそうです。
そのような方々を間近で見てきた清水さんは、患者さんやそのご家族が大きな喪失に必死に向き合おうとする力強さを感じる、と言われます。
大きな喪失を現実のものとして認め、その新しい事実に向き合っていく力を「レジリエンス」と呼ぶそうです。これは元は物理学などで使われる言葉だそうですが、意訳すると「元に戻ろうとする」ことを示している言葉です。
柳の木は、風が吹くとたわんで形を変えるけれども、風がやむと元の形に戻ります。心も柳の木と同じように、強い力がかかって一時的に形を変えても、また元の状態に戻ろうとする、そういう心の在り方を表す言葉として、心理学の世界でもレジリエンスという言葉が使われるようになりました。
5つの変化
心的外傷後の心理的成長プロセスにおいて、人の考えには次の5つの変化が生じると清水さんは言われています。
1:人生に対する感謝
死を明確に意識することにより、「今日一日を健康で過ごせることはとてもありがたいこと」という感謝の気持ちが芽生える
2:新たな視点(可能性)
一日一日に対しての感謝の気持ちができると、その貴重な時間をどのように過ごすべきかを一生懸命に考えるようになる。人生において大切なことは何か、その優先順位、生きがいについて深く考えるようになる。
3:他者との関係の変化
大きな病気になり様々な困難が生じる中で、自分の周りにいる多くの方が手を差し伸べてくれているような体験をする。その中で、改めて「自分は周りの人に支えられて今を生きているんだ」と感じるようになる。
4:人間としての強さ
大きな病気に向き合う中で、これまで自分が知らなかったような強さ、しぶとさに出会い、気づくことがある。
5:精神性的変容
人間の力をはるかに超える存在や力に気づくという変化が起こることもある。宗教的な考えの中で神様の存在を意識する方もいれば、自然の美しさに改めて気がつくという方もいる。
これらの変化を知り、清水さん自身にも大きな変化があったそうです。その変化とは、
今自分がしがみついていることの中で、
・そのうち取るに足らなく見えるであろうこと
・大切にしておかないと、後々に絶対に後悔するであろうこと
の区別をする力が備わったように感じていると言われています。
こういったものを見分ける力は、ただなんとなく生きていては気がつかないものでしょう。
人が死に対して持っている考え方を死生観と言います。上の二つを見分ける力は、死生観を持って生き、どのように生きていくべきかを真剣に考えた先でなければつかないものです。
別にそんな力がなくても幸せな一生を過ごせる方もいらっしゃると思いますが、自分の人生をしっかり見つめて生きていくことはやはりとても大切なことだと感じます。
人生は一度限りの旅である
清水さんがあるときにテレビ番組を見ていて、「人生は一度きりの旅である」というフレーズに出会い、それが大きく自分の中に入ってきたと言われます。
その時はっとしながら考えたことは、「なるほど、一回限りの旅か。この世に生まれ、せっかく一回だけの旅をする機会を与えられたのだから、いろんな人と出会い、様々な体験をして、豊かな旅にしないともったいないな」ということでした。
また、人生を終着点のある旅と考えるならば、「死」は恐れの対象ではなく、「終着点」でしかないのです。
本文より抜粋
人生一度きり、という言葉はいろんなところで聞く言葉なので、それほど新鮮ではないかもしれませんが、「旅である」という視点は、私にとって新鮮なものでした。確かにそう考えれば、死は恐怖ではなく、いつかたどり着く先、そう冷静に受け止めることが出来るような気がします。
私が本書を読もうと思った理由
私がこの本の概要を知った時、これは読んでおきたいと思った理由がありました。
私は以前に読んだ本の影響で、人生100年時代になったと考えています。そのため、自分が今の仕事を引退した後に何をしたいか、ということを考えながら、その準備を少しづつしていこうとしています。
これは、10年、20年先を見越してのことなのですが、それに執着してしまって「今」の時間を大切にすることを忘れてしまったり、今の時間を犠牲にするような生き方にはなりたくない、そんな風に思い、この本を手に取りました。
将来を見据えて準備していくことは、それはそれで大切なことです。
けれどもしも1年後に、運命の巡り合わせで「当然あるはず」と思っていた将来が突然なくなってしまったとしたら、そのときに私は今の私を後悔しないだろうか。
そう考えると、やはり死生観を持って生きることは大切だと感じます。
将来を真剣に考えながらも、今ここにある時間を大切にして、今をしっかり楽しむことも忘れないようにしよう、そんな気持ちを新たにさせてくれる本でした。
皆さんは、普段どのように過ごされていますか。
大切だと思う人と過ごす時間を、大切にされていますか。伝えたい想いは、しっかり伝えれているでしょうか。
もしも、少し後ろめたい気持ちになってしまうことがあるならば、ぜひ本書を一度手にとって読んで見てください。
この本は、人生という一度きりの旅を、より豊かなものにしてくれると信じています。
以上です。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。
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